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コラムColumn

まだまだ暑い日が続いていますね。高齢者では加齢に伴う総体水分量の減少や口渇反応の低下などから、脱水に気づきにくくなることがあります。そこへ、例えば利尿薬やSGLT2阻害薬のように水分を外へ出す薬、RAS系阻害薬やNSAIDsのように脱水時の腎血流調節を効かなくする薬が重なると、急性腎障害(AKI)・乳酸アシドーシス・正常血糖ケトアシドーシスといった重篤な事象につながることがあります。

今号は夏に多く寄せられる質問である「暑いときに注意する薬はある?」「食べられない日は薬はどうすればいい?」などの暑さに関連した薬の悩みについてお答えしていきます。

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AIによる今回の記事のまとめです。動画で見たいかたはこちらをどうぞ。

猛暑・脱水時に特に注意が必要な薬は?

猛暑・脱水時に、特に注意が必要な薬は作用の向きで3つのグループに分けて考えると整理しやすくなります。同じ「注意」でも、起きることがグループごとに違う点が重要です。

グループA:体から水・電解質を出す薬(=タンクの水位を下げる)

薬剤群代表的な薬剤脱水時に起きること
ループ利尿薬フロセミド、アゾセミド、トラセミド循環血漿量の減少、低Na・低K血症、起立性低血圧
サイアザイド系利尿薬トリクロルメチアジド低Na血症(高齢者で特に多い)、脱水
MRAスピロノラクトン、エプレレノン体液量減少・腎機能低下に伴う高K血症や腎機能悪化に注意
SGLT2阻害薬ダパグリフロジン、エンパグリフロジン浸透圧利尿による体液量減少。浸透圧利尿により尿量が増加することがあり、尿量だけでは脱水の有無を判断しにくい
下剤・浣腸酸化マグネシウム、ラクツロース、マクロゴール、センノシド下痢・水様便による水分喪失。便秘対策の増量がそのまま脱水に転じることがある

グループB:脱水時に腎臓の自動調節を効かなくする薬(=下がった水位に耐えられなくする)

薬剤群代表的な薬剤脱水時に起きること
RAS系阻害薬エナラプリル、カンデサルタン、サクビトリルバルサルタン輸出細動脈が拡張し、糸球体の出口が開いたままになる
NSAIDsロキソプロフェン、ジクロフェナク、セレコキシブ 貼付剤も含むプロスタグランジン産生抑制により輸入細動脈が収縮=入口が絞られる

この2つに利尿薬が加わった3剤併用は「トリプルワーミー(Triple Whammy)」と呼ばれ、 急性腎障害のリスクが上がることが知られています。RAS系阻害薬+利尿薬の2剤併用と比較して、NSAIDsを加えた3剤併用ではAKI発生率比1.31(95%CI 1.12–1.53)、開始30日以内では1.82(95%CI 1.35–2.46)と報告されています(Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525)。夏季の発汗や食事・水分摂取量の低下による体液量減少が加わると、AKIリスクへの注意がさらに必要になります。

グループC:暑熱時の体温調節に影響する薬

薬剤群代表的な薬剤脱水・猛暑時に起きること
抗コリン作用を持つ薬抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、過活動膀胱治療薬、一部の抗パーキンソン病薬 等発汗が抑制され、体温を下げられなくなる
抗精神病薬ハロペリドール、リスペリドン 等体温調節中枢への影響。口渇の自覚も鈍りやすい
β遮断薬ビソプロロール、カルベジロール 等暑熱時に必要な心拍応答が得られにくい

抗コリン作用を有する薬、抗精神病薬、β遮断薬などでは、発汗や循環・体温調節への影響から、暑熱環境下で注意が必要です。ただし、これらは脱水時に一律休薬する薬剤ではありません。

グループD:脱水そのものが重篤な合併症の引き金になる薬

薬剤脱水時に起きうる重篤事象根拠
メトホルミン乳酸アシドーシス脱水状態で服用を継続し重篤な乳酸アシドーシスを発現した事例が報告されている(日本糖尿病学会「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」2020年3月18日改訂)
SGLT2阻害薬正常血糖ケトアシドーシス、脱水による脳梗塞等の血栓・塞栓症日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂)
ジゴキシン脱水・腎機能低下による血中濃度上昇=ジギタリス中毒添付文書「重要な基本的注意」
炭酸リチウム脱水・腎機能低下による血中濃度上昇=リチウム中毒添付文書「7.用法及び用量に関連する注意」

食事や水分が摂れない日(シックデイ)の薬はどうすればいい?

まずは「学会のRecommendationなどに休薬が明記されている薬」と「処方医の判断が必要な薬」を分けて考えてます。それぞれ代表的な例を以下に記載します。

① 休薬が明記されている薬(あらかじめ処方医と取り決めておける)

  • ☑️SGLT2阻害薬:「発熱・下痢・嘔吐などがあるとき、ないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する」と明記されています。(日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」2022年7月26日改訂)
  • ☑️メトホルミン:脱水・シックデイ時は服用を中止します。利尿作用のある薬剤との併用時はとくに脱水に注意するよう注意喚起されています。(日本糖尿病学会「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」2020年3月18日改訂)

② 処方医の判断が必要な薬(薬局から一報を入れる)

  • ☑️利尿薬、RAS系阻害薬、MRA、NSAIDs
  • これらにはシックデイに一律で止めるという明確な基準はありません。原疾患(心不全・腎疾患など)によっては中断そのものがリスクとなります。食事摂取量・下痢嘔吐の有無・体重の変化を確認したうえで、処方医へ情報提供します。

③ 事前に決めておくと現場が動きやすくなること

在宅・施設では、脱水に気づいた時点で医師とすぐ連絡が取れるとは限りません。導入時に処方医とシックデイルールを文書で共有しておくと、当日の判断が速くなります。

  • ☑️どの薬を、どの状態になったら止めるか
  • ☑️何日止めたら連絡するか
  • ☑️再開の条件(例:食事が普段の半分以上摂れるようになったら)

「水分をしっかり摂りましょう」と言えない患者さんには、どう伝えればいい?

心不全や慢性腎臓病、透析中の患者さんでは、水分摂取量に個別の指示が出ていることがあります。一律にたくさん飲んでくださいと伝えるのは危険です。

  • ☑️まず主治医の指示水分量を確認する(お薬手帳や連携ノートに記載してもらう)
  • ☑️指示量がある場合は「決められた量を、こまめに分けて」と伝える
  • ☑️体重測定を毎日の習慣にしてもらい、増えすぎ・減りすぎの両方を見る
  • ☑️経口補水液は脱水時の水・電解質補給に用いられますが、ナトリウムや糖を含むため、心不全・腎機能障害・糖尿病などでは必要量を主治医・医療者と相談する

脱水に気づくためのサインは?

高齢者では、のどの渇きを訴えないまま進行します。訴えを待たず、数字と見た目で捉えるのが基本です。

見るところ気づきのサイン
体重短期間で明らかな体重減少がある場合は脱水を疑う。特に数日〜1週間で3%程度以上の減少は要注意。
尿回数・量が減る。色が濃くなる。ただし利尿薬・SGLT2阻害薬の服用中は一律に当てはまらない
口の中舌や口腔粘膜の乾燥、唾液が糸を引く、義歯が合わなくなる
腋窩乾いている(通常はしっとりしている)
循環起立時のふらつき、脈が速い、血圧の低下
様子なんとなく元気がない、ぼんやりしている、食欲が落ちた

「なんとなく元気がない」は脱水を含む体調悪化のサインになり得ます。特に普段との違いがある場合は、食事・水分摂取量、体重、尿量、血圧などと合わせて評価します。

症例:訪問看護師の「なんとなく変」が急性腎障害を防いだ例

※実際の事例をもとに、個人が特定されないよう再構成した架空の症例です。

84歳女性、独居。 高血圧・慢性心不全でフロセミド20mg/日、エナラプリル5mg/日を服用中。変形性膝関節症の疼痛に対しロキソプロフェン60mgが「頓用」で処方されていたが、実際にはほぼ毎日服用していた。便秘に対し酸化マグネシウム。

8月上旬、電気代を気にしてエアコンを使わず、食欲が落ちて食事は1日1食程度。定期訪問時、訪問看護師が「先週よりぼんやりしている」ことに気づき体重を測定したところ、1週間で1.8kgの減少(前週52.0kg → 50.2kg)。腋窩は乾燥、起立時にふらつきあり。

看護師から薬局へ連絡があり服薬状況を確認したところ、ロキソプロフェンが連日服用されており、利尿薬+RAS系阻害薬との3剤併用状態であることが判明。主治医へ情報提供したところ、当日臨時往診となり、血清クレアチニンの上昇(0.72 → 1.34mg/dL)を確認。ロキソプロフェンをアセトアミノフェンへ変更、フロセミドを一時減量、補液を実施。補液・薬剤調整後、腎機能は改善傾向を示した。

この症例のポイント

  1. ☑️処方は変わっておらず、変わったのは季節と食事量だけ
  2. ☑️頓用の実服用回数は処方箋からは見えない
  3. ☑️発見のきっかけは検査値ではなく、看護師の「なんとなく変」と体重計の数字
  • ☑️特に夏季はTriple Whammyの患者を重点的に抽出し、脱水リスク(食事・水分摂取、下痢・嘔吐、発汗、体重変化)を確認する。
  • ☑️NSAIDsの頓用は残薬で実態を確認する。貼付剤も全身吸収があるため、腎機能や併用薬を踏まえて注意する。
  • ☑️リスクのある薬については、導入時にシックデイルールを共有する。
  • ☑️併用薬にジゴキシン・炭酸リチウムがある場合は、脱水による血中濃度上昇に留意し、症状(悪心、視覚異常、振戦、傾眠等)の確認と採血の提案を検討する

夏は、お薬が変わっていなくても、体のほうが変わります。次のような変化に気づいたら、些細なことでもかかりつけの主治医や薬局までご連絡ください。

  • ☑️体重が1週間で1kg前後減っている
  • ☑️食事が普段の半分も摂れていない日が続いている
  • ☑️下痢や嘔吐がある
  • ☑️なんとなくぼんやりしている、返事が遅い、いつもより元気がない
  • ☑️立ち上がったときにふらつく
  • ☑️舌や口の中が乾いている、義歯が合わなくなってきた
  • ☑️エアコンを使っていない、扇風機だけで過ごしている

次の場合は特に注意が必要です。

  1. ☑️糖尿病のお薬を飲んでいる方が、食事を摂れていないとき
    上述したように、特にSGLT2阻害薬・メトホルミンは食べられない日には休薬することが学会から示されています。これら以外の糖尿病治療薬も薬剤ごとに対応が異なり、インスリンなど自己判断で中止してはいけない薬もあることに留意が必要です。
  2. ☑️利尿薬(むくみ・心不全のお薬)と、血圧のお薬と、痛み止めを一緒に飲んでいる方
    この組み合わせは、夏の脱水が加わると腎臓に負担がかかります。
  3. ☑️尿の色が薄いのに、上のようなサインがある方
    お薬の影響で、脱水していても尿が薄いままのことがあります。
  • 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2014年6月13日策定/
    2022年7月26日改訂)
  • 日本糖尿病学会「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」(2020年3月18日改訂)
  • 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」(2024年7月25日公表)
  • 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」(2025年6月24日)
  • Lapi F, Azoulay L, Yin H, et al. Concurrent use of diuretics, angiotensin converting enzyme inhibitors, and angiotensin receptor blockers with non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of acute kidney injury: nested case-control study.BMJ. 2013;346:e8525.
  • 各薬剤の電子添文(利尿薬、RAS系阻害薬、NSAIDs、SGLT2阻害薬、メトホルミン、ジゴキシン、炭酸リチウム)