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メトロ・メディカル・インフォメーション、ちぢめてMMI。月イチ更新で患者さんや医療機関、施設のスタッフにちょっと役立つ薬の情報をお届けします。

2025年11月号のテーマはインフルエンザについて!

2025年は例年より約1か月早く流行が始まり、10月上旬に流行シーズン入りとなりました。10月中旬時点での定点報告数は2.36で、前年同期の2倍以上のペースで増加しています。特に小学校や保育園での集団感染が報告されており、今後は高齢者や基礎疾患のある方への感染拡大が懸念されています。

札幌市ではインフルエンザ警報が発令されました。
札幌市内の定点医療機関当たりのインフルエンザ患者報告数が、第44週(10月27日~11月2日)に46.88となり、警報発令の基準である30を超えました。冬に向けて、今後もさらに流行が拡大することが予想されています。

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健康管理のために普段から十分な睡眠と栄養を取り、体調不良時は無理せず休養するようにしましょう。流行期には人混みをなるべく避けることも大事です。

感染予防・感染拡大防止のために手洗い、手指消毒の徹底やマスク着用、咳エチケットの励行、また室内の適切な換気(1時間に1回、数分間)や湿度の維持(50〜60%が目安)などを意識して行うようにしましょう。

(参考文献:日本感染症学会編、2025/26 シーズンに向けたインフルエンザワクチン接種に関する考え方とトピックス、2025)

流行期には予防接種も大事です。ワクチンには発症予防と重症化予防の両面で効果が認められています。
「ワクチンを打ってもどうせ感染することあるし……」という声を聞くことがありますが、ワクチンの最も重要な役割は「重症化を防ぐこと」にあります。

ワクチンの効果発症予防効果

2023-2024年シーズンでのワクチンの有効性は、2~17歳の小児では63~65%、18~64歳の成人では36~55%、65歳以上の成人では40~55%でした。2024-2025年シーズンは、米国で全体56%、欧州で32~56%、日本の小児で57~73%と良好な効果が報告されています。

流行株とワクチン株の一致度によって効果は変動しますが、多くの研究で一定の予防効果が示されています。

ワクチンの効果重症化予防効果

65歳以上の高齢者福祉施設入所者では、発病を34~55%阻止し、死亡を82%阻止する効果があったとされています。

また、2024/25シーズンでも、インフルエンザワクチンは65歳以上の高齢者を中心に24万人の入院を防いだと推定されました。

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接種のタイミングと効果の持続期間

推奨接種時期: 10月~12月(流行前の接種が理想的)
効果発現: 接種後約2週間から抗体が上昇
効果のピーク: 1回接種では接種1か月後がピーク、2回接種では初回から2~3か月後にピーク(77~78%)に達します
持続期間: 約5ヶ月(ただし効果は徐々に減少し、5か月後には50.8%まで低下するとの報告があります)

このため、流行シーズン(12月~3月)に十分な免疫を保つには、10月~11月の接種が最適です。早すぎる接種(9月など)は、流行ピーク時に効果が減弱する可能性があります。

経鼻ワクチン(フルミスト)について

2024年シーズンから、鼻にスプレーする生ワクチン「フルミスト」が正式に国内で供給されるようになりました。

特徴:

  • 対象:2歳~19歳未満
  • 左右の鼻にスプレーするだけで、痛みを感じることなく簡単に接種完了
  • 血中のIgG抗体だけでなく、鼻咽頭粘膜にIgA抗体を産生するため、感染初期のウイルス侵入を防ぐ効果が期待できます
  • 1回接種で完了

注意点: 現時点では小児のインフルエンザワクチン助成対象外のため、自費診療となります。また、免疫不全の方、妊婦さんなどは接種できません。

よくある質問

Q: 毎年接種する必要がありますか?
A: はい。インフルエンザウイルスは毎年変異するため、流行が予測される株に合わせて毎年ワクチンの製造株が更新されます。また、ワクチンの効果は接種後徐々に減弱するため、毎年の接種が推奨されます。

Q: 卵アレルギーがあっても接種できますか?
A: 軽度の卵アレルギー(加熱した卵が食べられる程度)であれば、通常問題なく接種できます。重度のアレルギー(アナフィラキシーの既往など)がある場合は、医師にご相談ください。

Q: 接種後の副反応は?
A: 注射部位の痛み、腫れ、発赤が最も多く見られます。発熱、頭痛、倦怠感などの全身症状が現れることもありますが、通常2~3日で改善します。

Q: 新型コロナワクチンとの同時接種は可能ですか?
A: はい。インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンは同時接種が可能で、接種間隔に制限はありません。ただし医療機関によって方針が違うこともあるので、接種する医療機関の指示に従うようにしてください。

インフルエンザの治療薬にはいくつかの種類があります。それぞれに特徴があり、患者さんの年齢や症状、生活スタイルに合わせて医師が最適なお薬を選択します。

(イラストは錠剤、粉薬、吸入薬など剤形のイメージであり、実際のものとは異なります)

以下、薬局で取り扱うことの多い4品目について解説します。

1. タミフル(オセルタミビル)カプセル・ドライシロップ

タミフルは2001年に日本で承認された最も使用実績の豊富な経口薬です。カプセルとドライシロップの2つの剤形があり、小さなお子さんから高齢者まで幅広い年齢層で使用できます。

飲み方: 1日2回、朝と夕方に5日間続けて服用します。食後に飲むことで吐き気などの副作用を軽減できます。

特徴とメリット: 長年使われてきた実績があり、安全性のデータが豊富です。飲み薬なので吸入操作が難しい方や、呼吸器系の持病がある方にも使いやすいお薬です。ドライシロップは苦味があるため、オレンジジュースやチョコレートアイスなどに混ぜると飲みやすくなります。

注意点: 5日間しっかり飲み切ることが大切です。症状が良くなっても途中でやめてしまうと、ウイルスが完全に抑えられない可能性があります。

2. リレンザ(ザナミビル)吸入薬

リレンザは2000年に承認された吸入タイプのお薬で、専用の吸入器(ディスクヘラー)を使って粉末状の薬を吸い込みます。

使い方: 1日2回、朝と夕方に5日間続けて吸入します。1回の吸入で2ブリスター(2回吸入)を使用します。

特徴とメリット: 吸入薬なので、薬が直接気道に届き、全身への影響が少ないのが特徴です。そのため、副作用が比較的少ないとされています。また、消化器症状(吐き気など)が出にくいため、タミフルで吐き気が心配な方に適しています。

注意点: 吸入操作が必要なため、5歳未満のお子さんや、気管支喘息・COPDなどの呼吸器疾患がある方には慎重に使用します。喘息のある方では、気管支攣縮を起こす可能性があるため、事前に医師に相談が必要です。薬局では吸入手技の指導を丁寧に行いますので、不安な方はお気軽にお声がけください。

3. イナビル(ラニナミビル)吸入薬

イナビルは2010年に承認された吸入薬で、最大の特徴は「1回の吸入で治療が完了する」ことです。

使い方: 発症後できるだけ早く、成人は2容器(4吸入)、10歳未満のお子さんは1容器(2吸入)を一度に吸入します。これで治療は終了です。

特徴とメリット: 1回の吸入で済むため、飲み忘れの心配がありません。特に、毎日薬を飲むのが難しい方や、確実に薬を使い切りたい方に適しています。吸入後は長時間気道に留まってウイルスの増殖を抑え続けます。リレンザと同様に、全身への影響が少なく、副作用が比較的少ないのも特徴です。

注意点: 1回の吸入で治療が決まるため、吸入手技が非常に重要です。吸入がうまくできないと十分な効果が得られません。また、リレンザと同様に、気管支喘息やCOPDの方は使用に注意が必要です。

4. ゾフルーザ(バロキサビル)錠剤・顆粒

ゾフルーザは2018年に承認された新しいタイプの経口薬で、これまでの薬とは異なる作用の仕方をします。

飲み方: 1回だけの服用で治療が完了します。体重に応じて服用量が決まります(体重80kg未満は40mg、80kg以上は80mg)。空腹時でも食後でも服用できます。

特徴とメリット: タミフルなど従来の薬は「ウイルスの拡散を防ぐ」のに対し、ゾフルーザは「ウイルスの増殖そのものを阻止する」という新しい仕組みで効果を発揮します(キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害)。1回の服用で済むため、飲み忘れの心配がなく、仕事や学校で忙しい方にも便利です。ウイルスの排出を早く抑える効果があり、周囲への感染拡大防止にも役立つとされています。

注意点: 12歳未満のお子さんや体重の軽い方では、耐性ウイルスが出現しやすいことが報告されています。ただし、耐性ウイルスの大規模な流行は現在のところ確認されていません。日本感染症学会の最新の提言(2023年11月改訂)では、12歳以上の方には「タミフルと同等の推奨度で活用することが可能」とされています。また、金属を含む制酸剤(胃薬)、Ca・Mg・Fe・亜鉛などのサプリメントと同時に飲むと、吸収が悪くなることがあるため、前後4時間は空けることが推奨されます。

2025年シーズンは例年より早く流行が始まっています。ワクチンはできるだけ早めの接種をお勧めします。ワクチンに関するご質問や、接種医療機関のご案内など、お気軽に薬局スタッフにお声がけください。


※本情報は2025年11月時点のものです。最新の流行状況については、上記の公的機関のウェブサイトもご参照ください。